真田 かずこ (さなだ かずこ)
<経歴>
1952年 島根県浜田市生まれ、滋賀県高島市在住。
個人誌「トンビ」発行、詩誌「山陰詩人」同人。
2007年 詩集『あたらしい海』(思潮社)
2010年 第60回滋賀県芸術文化祭詩部門 芸術文化祭賞受賞
2012年 詩集『奥琵琶湖の細波』(コールサック社)
【詩の紹介】
今
この日
この瞬間
いちばん
若く
いちばん
美しい
わたしがいる
いくら振り向いたって
きのうの
わたしも
一瞬前の
わたしさえ
もどってこない
どんなに思い描いても
あしたの
わたしも
一瞬先の
わたしさえ
見出すことはできない
一瞬
この一瞬
新しく
新鮮な
わたしが
生まれ
出てくる
「COAL SACK」55号より
啓蟄
二〇〇六年三月六日
まさに その日
彼女は光の中に出た
青春の輝きを断ち
ただひとり息を潜めて
深く掘った穴の中で
何を見つめていたのか
己の吐く息に湿り
己の鼓動を枕にして
何を夢みていたのだろう
季節が幾度巡ったかなど どうでもよかった
なぜ生きなければならないのか
なぜ生まれてきたのか
目を開けても見えないところで
掘り進んだ もっと深く 深く
どの爪にも血が滲み
誰にも届かない悲鳴をあげながら
その身体は日ごとに色を失くし
見えない目と 絶え間なく動く手だけが
すべてだった
もう止めよう
手を動かすのは もう
最後にもう一度
そこに
光が降ってきた
暖かい陽が どっと
ここは どこ
まぶしくて何も見えない
身体に力が蘇ってくるようだ
抜けた
地上に
万歳!
光の中で
日に日に元気になる
彼女
「COAL SACK」54号より